森下レポート...近頃の展覧会について

先月の話になるが、卒業生のO君から写真が3枚、届いた。今は彼の奥さんが切り盛りする日本酒醸造元に伝わったもの。大正3年との後世のメモ書きから、おそらく曾祖父の時代、皆で奈良へと特別列車を仕立てて出向いた時の写真(駅の出発前と走行中に写された機関車は国有化後の6011。元関西鉄道の「追風」の1台)。園遊会の記念写真にはおびただしい人々がカメラの前でポーズを取っている。

大阪大学の総合学術博物館で開催中の「映画『大大阪観光』の世界 ―昭和12年のモダン都市―」を見てきた(5月26日)。1937年に市の電気局と産業部が制作した28分の観光宣伝映画を分析しながら、関連する様々な資料を展示したものである。とはいえ、この展観はモダンへの憧憬を素朴に表明しているのではない。撮影されなかったもの(=隠そうとしたもの)に関して、今日的なメディア・リテラシーの視点から批判を加えている。映画は途中から前年新しく就航した観光艇「水都」号による大阪巡りとなる。女性のガイドが川筋や港の光景を説明していくが、それらの映像には工場群や水上生活者も写り込んでいたのだった。

そういえば私たちが3月に行った写真展で神戸市より拝借した観光映画、『観光の神戸』(制作年不詳、ただし、1935年以降1937年までであろう)を上映したが、それは全編がバスガイドの導きで各所を見て廻る趣旨であった。おそらく『大大阪観光』とほぼ同時期に制作されたであろうこの映画にも同様な工夫があることが興味深いが、神戸の観光地を淡々とめぐるだけであり、大阪の場合のような読み解きの面白さには欠けているようだ。

それにしても、京都国立近代美術館の「京都学『前衛都市・モダニズムの京都』1895-1930」(今月9日から)や兵庫県立美術館の「躍動する魂のきらめき―日本の表現主義」(今月23日から)など、大正や昭和期の美術をも含めた、大袈裟にいうなら文化の総体を捉えようとする試みがここの所多いのは、なぜなのだろうか?

最後に写真集の進捗状況について一言。原稿を送って以来音沙汰のなかった横浜に久し振りの連絡を入れた。何とかなりの遅れがあるという。それでも6月一杯には発刊にこぎつけたいとの意向。こちらも何らかの形で加勢する必要があろう。

ちなみに昨日(6月2日)、開港150年を記念して切手が発行された。横浜、函館、長崎の3都市。プロジェクトの一環として1シートずつ購入してみた。開港が遅れ、今回は発行されない神戸と新潟の分は10年後にちゃんと出るのだろうか?